東京家庭裁判所 昭和57年(家イ)3971号 審判 1982年12月10日
〔参考〕 フランス民法第六章離婚(一九七五年七月一一日法律第六一七号)
第二二九条〔離婚事由〕離婚は、〔以下の〕場合に言い渡すことができる。
あるいは相互の同意
あるいは共同生活の破綻
あるいは有責事由
第二三〇条〔協議離婚〕 <1> 夫婦は、ともに離婚を請求するときは、その事由を審理させる必要はない。夫婦は、単に、離婚の諸結果を定める合意案を裁判官の承認に服せしめる義務を負う。
<2> この請求は、あるいは当事者のそれぞれの弁護士が、あるいは共同の一致で選ばれる弁護士が提出することができる。
<3> 相互の同意による離婚は、婚姻の最初の六月中は、請求することができない。
第二三一条〔審理方法・請求の更新〕<1>裁判官は、夫婦のそれぞれと請求を検討し、次いで夫婦を合わせ〔て検討す〕る。次に、裁判官は、夫婦の弁護士又はそれぞれの弁護士を呼び出す。
<2> 裁判官は、夫婦が離婚する意図を固持する場合には、夫婦に三月の熟慮期間の後にその請求を更新しなければならないことを指示する。
<3> この熟慮期間の満了に続く六月内に更新がない場合には、共同の請求は、失効する。
第二三二条〔離婚の言渡し・合意の認可〕 <1> 裁判官は、夫婦のそれぞれの意思が真実であり、かつ、夫婦のそれぞれが自由にその同意を与えたとの心証を得た場合には、離婚を言い渡す、裁判官は、同一の裁判によつて、離婚の諸結果を定める合意を認可する。
<2> 裁判官は、合意が子又は夫婦の一方の利益を保持するには不十分であると認定する場合には、認可を拒否し、離婚を言い渡さないことができる。
申立人 西川道子
相手方 ミッシェル・ベルモンド・レイモン
・フランシス・エルノ
主文
申立人と相手方とを離婚する。
理由
1 申立人は相手方と離婚する旨の調停を申立てた。
2 申立人は肩書地に居住する日本人女性であり、相手方は肩書地に居住するフランス人男性である。よつて、本件離婚に関しては、法例一六条及び八条により、離婚の実質的成立要件については夫の本国法たるフランス法を、形式的成立要件についてはフランス法又は日本法のいずれかを、準拠法として適用することになる。
3 そこでフランス法における離婚の要件を検討すると、フランス民法(一九七五年七月二日改正)には我国の調停離婚に該当する制度はないが相互の同意による離婚は認められている(フランス民法二二九条)。ただし、これは裁判官による離婚の言渡しが要件である。すなわち、フランス民法二三〇条ないし二三二条によれば、
<1> 失婦がともに離婚を請求するときは、その事由を審理させる必要はないが、離婚の諸結果を定める合意案を作成し裁判官の承認に服せしめる義務をおうこと
<2> この離婚は、婚姻の最初の六か月中は請求できないこと
<3> 裁判官は、三か月の熟慮期間の経過後請求の更新を指示し、当事者の意思が真実でありかつ自由意思によるものであるとの心証を得た場合には離婚を言渡し、また離婚の諸結果を定める合意を認可すること
などが規定されている。上記諸要件は、単なる形式的要件にとどまらず、実質的成立要件であると解される。
4 他方、我が国の離婚手続において裁判官が離婚の言渡しを行う場合は、裁判離婚における判決のほか、家事審判法二四条における審判がある。家事審判法二四条による審判は「調停が成立しない場合」になされうるところ、フランス法には前述のとおり調停に該当する規定が存せず、従つて前記相互の同意による離婚は当事者間の合意は存するものの法制上調停ができない場合といえるから、かかる場合も「調停が成立しない場合」に含まれるものと解し、家事審判法二四条による審判をもつて前記離婚の言渡しをなすのを相当と解する。
5 (1) 本件記録中の諸資料、調査官の調査報告書によると、(a)申立人と相手方は、昭和五〇年七月二八日、フランスにおいて同国の方式により婚姻した夫婦であること(b)二人は昭和五三年九月に来日したが昭和五五年一月頃から別居し、その後話合いのうえ離婚することに合意したこと(c)申立人は、昭和五七年七月一四日に当裁判所に離婚の調停を申立て、同月一五日付の別紙離婚の結果の合意書(写)を提出したこと、が認められる。
(2) 請求のあつた日から三か月の熟慮期間を経過した後の昭和五七年一一月二五日の調停期日において、当事者双方は、離婚する意図を固持しており、請求を更新する旨述べた。
そこで当裁判所は当事者双方を審問したところ、両者とも、離婚の意思は真実でありかつ自由にその同意を与えたものであることが認められた。
6 以上のとおりであるので、当裁判所は、離婚の諸結果を定める別紙合意書(写)記載の合意を認可し、家事審判法二四条に基づき、調停委員澤木敬郎、同山戸礼子の意見を聴いたうえ、一切の事情を見て本件の解決のため離婚の審判をすることとし、主文のとおり審判する。
(家事審判官 島田充子)
別紙<省略>